溺れている。
僕という人間は、いったい何なのだろうと。ふと、そんな風に思う時がある。
これは一種の盲目であると自覚してはいるのだけれど、えてして、そのように理解しつつ反応せずにいられることは、どうしてもできない。
愛とか恋とかいうのものに、僕は溺れているのだ。
いいや、もっと具体的にいうのなら、あの人に溺れている。そういうほうがよく伝わるだろう。
僕は、こんな大海を泳いだことがない。
瞬く間に変わりゆく移りゆく水面の顔色は、美しくきらめくように見え、どこまでも沈みゆくもののようにも見える。
こんなに不可思議なものに溺れてしまっては、人はどうして、こんなにも弱くなってしまうのだろうか。
いいや、強くなったのだ。
そうだ。そう思うことにしよう。そうすれば自分が弱くなったのだと責める必要などないだろう。
あの人と出会い、こうしてやってきた時間の中で、僕がどれほど強くなれたか、知らない。本当に感謝してますし尽くせないほどだ。
しかしながらやはり、この胸の強弱に、近頃は自分を見失うことが多い。
落ち着いて
落ち着いて
そう自分に言い聞かせる。
自分が歩んでいるこの道をまっすぐに見つめて、その道をただひたすらに進む。
そうすれば一時は離れることができる。誤魔化していられる。
でもやはり、それも長くは続かないだろう。
僕は今、とてつもない大海の中をひとり、溺れている。
この感覚に僕は、反応せずにはいられなくなってしまった。
それは少し、苦しい。
ああそうだ、互いに苦しいだろう。
心を落ち着かせ、ただ大海に浮かぶのだ。
波の音が聞こえる。
水の音が聞こえる。
水の中の音が聞こえる。
太陽が眩しい。
目を瞑って浮かび揺らぐ。
そうしたら少しずつ溶けてゆく。
苦しみが溶けてゆく。
なんて、
そんなことを考えるほど
僕はあの人に溺れているのだ。