電話で、バーボンとバーボンを飲む約束をかわす、この夜。
電話で1時間以上も話すような間柄は、きっと70になってもそんな関係でいられる気がする。
今日は、1日やるべきことをやって、「いい1日だな」って思いながら、大学の図書館を出ようとした9時半ごろ。一本の電話。
地球一周の船旅をした仲間からの電話だった。まあ、その前に何通かチャットがあったけど、やっぱり電話が来るのは嬉しいもの。
でも、すぐ切られた。わんぎり。
すぐ掛け直したら、出てくれて、それから30分くらい話した。僕が外の道を歩きながら電話をしていると、カエルの鳴き声やサイレンの音が聞こえるらしく、「カエルうるさいぞ〜」とか「お前、迎えに来たんじゃね?」とか言ってくれて、それがなんだか、まるで隣にいるかのように聞こえた。だから、もっと嬉しかった。
こういう電話もいいなあって。
なかなか、チャットだけの繋がりってよわいからさ。電話だったり、実際会ったり、遠くの人には手紙を出したり。そうすると、時間を感じられるのよ。チャットの中に時間なんて存在しないのよ。でも手紙は距離を感じるし、書いた時間、書いてくれた時間、読む時間。それはチャットとは違う、書き直しのきかない思いの形。
電話も間を感じて話す。感じながら、「あ、かぶった」とか「話すぎかな」とか思う。でも話を続ける。そうすると、だんだんお互いの息があってくる。目の前にいるわけでも、顔が見えるわけでもないのに、お互いの息があってくる。雰囲気がわかってくる。
バーボンという名前をもっている彼だが、僕は心から彼を信頼している。その根拠は全くない。というか覚えてない。でも、そんなことはいい。とにかく、僕は彼を信じていたい。それだけでいい。
そんな彼と、久しぶりに話したこの夜。
いつかふたりでバーボンを飲む約束をかわした。
こんな病気だったらなってもいいなあ。
今日は、美浜町の海岸に流木を拾いに行った。
海に来るときは、大概、歌をうたう。自分の歌を。誰か見ていても気にしないのが僕のルール。それに、歌ってたとしても誰も声をかけてこない。そんなことは一度もないもの。ルールということでもないけど、ただ気にしないだけ。
流木探しながら歩いてたら、よくある石垣みたいなやつがあったから、カッコつけて写真をとった。
そのまま流木を何本か抱きかかえて歩いていたら、疲れた。だから、まとめて置いておいた。明日もう一回取りに行かなきゃ。
重い荷物を置いて、進んで行ったら、穴だらけ。
どうなってんのか。
すると、遠くにトラック。それから人影がある。
これが、おじさんとの出会いだ。
といっても、名前は教えてもらってない。でも、素敵な人で、30分以上僕の相手をしてくれた。
いやいや、そんなことより、穴を開けた張本人がおじさんだ。
「何をしてるんですか?」
「釣りのえさとっとんだよ」
そういって、ちょっと形の変わった、踏み足しやすそうなスコップを一気にザクッと!水が溢れた柔らかい土にさして、テコの原理でくいっと土を持ち上げて、スコップを返して、土の塊をほぐす。
すると、ミミズのようなもんが出て来た。
「じゃむし」
といって、にまあっと笑い、腰につけた、白いポリ容器に入れた。
「今の若いもんはよお、擬似のえさみたいなのつけてやるんだわ。でもよ、年寄りはあんな釣り方できんもんで、こうやって餌を自分でやるんだわ。」
「まあ、毎日、暇だもんでよお。でも、えさ代だけでもバカにならんだろ?年金暮らしだからよ。」
なるほどなあ。僕は暇が好きだけど、究極的に暇になると、釣りの餌を取り始めるのかと感心してしまった。
でも、ここいらの人たちは、昔は釣りしたり泳いだりして遊んでいたようだ。そりゃそうだ。
そういえば、以前にあったおじさんなんかは、木の実をパクパク食べてたっていってたなあ。
そんな記憶を辿ったりしてたら、突然おじさんが、
「わし、病気だもんでよ」
え?今なんて言った?2秒くらいポカンとしてしまった。
そしたら、おじさんが「やみつきってこと」って言いながら、またにまあって笑った。
一瞬の憂いを返して欲しいくらいに、僕は幸せな気持ちになった。
「だってよ、これ一匹で、タイ一匹釣れるんだ!他にも魚いっぱい釣れる」
「こりゃ、一回やった人は、みんなやみつきになるねえ」
こんな素敵な病気にかかってみたいもんだって心から思ったよ。
言葉ってのは面白いね。