ミニレゾのミカタ

『ニートのいずみくん』の日記的なログ

新宿ピカデリーにて

2019TOKYO 2

 

昔から「あんたは現金払いな人だね」と言われた。

その当時からキャッシュレスを意識しているような時代の先を行っていた母の発言を今頃になって思い出す。

とはいえ、その言葉に込められた意味は、決して心地よいものではない。

 

つけ麺でいっぱいになった腹が限界を迎えていた。にも関わらず、ぼくはその足で新宿へと向かう。早朝一番の映画を見るためである。電車に乗った。予定よりも一本遅い電車になることになった。あいにくの雨。折り畳み傘の骨は一つ折れており、何度広げたところで、3秒後には自動で折りたたまれる優れものである。兄からもらったユニクロ商品で、何度か大切に使わさせてもらったけれど、今では、持っているのもうっとうしいというくらい。

 

足に雨を纏うようにして靴はどんどんと重くなった。ぼくのお腹も限界である。そろそろ出てしまいそうだった。そうしてたどり着いたのが新宿ピカデリー。真っ先に向かったのは、、、なんて、いうまでもない。ところが、なんとピカデリーは満員御礼、千客万来といったご様子であり、案の定、ぼくは絶望を感じるのであったが、幸いにも、一つだけ空いていたので、そちらを使わせていただいた。

 

ところで、なぜ名古屋から東京に出てきてまで映画をみようだなんて思ったのかといえば、ただ単にタイミングが良かったというだけの話だ。たまたまピカデリーでの無料鑑賞券を持っていたのである。名古屋にピカデリーはないし、同じ作品でもミッドランドスクエアシネマでやっていたけれど、せっかくならピカデリーで観た方がお得だった。ただ、それだけのことである。

 

これだけもったいぶっておいて、一体何を観たか。ヴァイオレット・エヴァーガーデンというアニメーション映画である。放火事件によって数名の命が奪われた京都アニメーションが製作するアニメで、テレビ放映されていた作品が本当に好きで、何度も何度もネットフリックスで観ていた。その外伝を、今回映画館で上映することになったと聞き、観にきた。来年度のはじめ頃に「劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン」も公開される。

 

東京は、雨。スクリーンには鮮やかな色彩と光、港の街並み、丘から見える風景、風、人の温度、感情...。さまざまなものが投影されていく。世界をまるで忘れさせるかのように、そこには全く違う世界が広がっていた。

 

映画というものは本当に素晴らしいものだと、感じたよ。

 

正直なところ、テレビ版に比べれば、作品自体の質は落ちていて少し残念だった。ストーリーの展開の仕方、感情の揺れ動き、どれを取っても弱かったように思う。ただ、人間の感情や人生というのは、そうやすやすと、劇的に変わるものではない。ドラマチックというのは、いかにも振り返って語るからこそ見えてくるものであり、今この瞬間こそがドラマというのは、そう感じるのはなかなかどうして難しいものである。いいや、そういう人もいれば、そうじゃない人もいるということ。

 

ぼくには、イザベラの心象のうつりかわりが、ある意味、自然なことのように思えたから。誰しもが、一瞬の出会いにポジティブにはたらくわけじゃあない。迷いもするし、反対のことをしてしまうこともある。

 

東京にきて、涙の雫を足元に溜めながら、ぼくは一つ涙した。

映画というのは、とても素晴らしい。

 

そこでぼくは、一つの人生を見ることができるのだから。