いま、僕はキノコなのかもしれない。
僕の勤めている事業所を利用している女性から、この絵をもらった。
それがキノコだった。キノコの絵だった。
その女性の目には、僕がキノコに見えているのだろうか。
東白川村からの電車の中でサン=テグジュベリ「星の王子さま」を読み終えた。
不時着した飛行機を修理するのに必死になっていて、つい「大人みたいなことを言う僕」に対して、王子さまは本気で怒ります。
そして、こう伝えるのです。
ぼく、まっ赤な顔のおじさんがいる星に、行ったことがある。
おじさんは、一度も花の香りを嗅いだことがなかった。
星を見たこともなかった。
誰も愛したことがなかった。
たし算以外は、なにもしたことがなかった。
1日じゅう、きみみたいにくり返してた。『大事なことで忙しい!私は有能な人間だから!』
そうしてふんぞり返ってた。
でも、そんなのは人間じゃない。キノコだ!
何百万年も昔から、花はトゲをつけている。
何百万年も昔から、ヒツジはそれでも花を食べる。
なんの役にも立たないトゲをつけるのに、
どうして花があんなに苦労するのか、
それを知りたいと思うのが、大事なことじゃないって言うの?
ヒツジと花の戦いが、重要じゃないって言うの?
赤い顔の太ったおじさんのたし算より、大事でも重要でもないって言うの?
ぼくはこの世で一輪だけの花を知っていて、
それはぼくの星以外どこにも咲いていないのに、
小さなヒツジがある朝、なんにも考えずにぱくっと、
こんなふうにその花を食べてしまっても、それが重要じゃないって言うの!
もしも誰かが、何百万も何百万もある星のうち、
たったひとつに咲いている花を愛していたら、
その人は星空を見つめるだけで幸せになれる。<ぼくの花が、あのどこかにある>って思ってね。
でも、もしその花がヒツジに食べられてしまったら、
その人にとっては、星という星が突然、ぜんぶ消えてしまったみたいになるんだ!
それが重要じゃないって言うの!
いま、僕はキノコなのかもしれない。
僕は、人間になりたい。人間でありたい。
たった一輪の花を、花とヒツジの戦いを、星空を愛おしむことができる人でありたい。
僕はつくづく......不器用なんだと思う。
絵を描いてくれた女性に「どうしてキノコを描いたのですか?」と尋ねてみた。
『秋だからです!うちの庭に生えているドクキノコです!!』
しっかりとした声が、部屋中に響いた。
おわりに、朝のはなし。
通勤のために電車に乗ってイヤホンで音楽を聴いていた。Saucy dog 「いつか」を聴いていた。
その曲のリズムと、目の前に座っている人が膝を叩くリズムが偶然重なって、可笑しかった。
電車を降りて、改札。ピコーン。
右隣の改札を抜けようとした女性は立ち止まった。赤いランプがついている。その人は、何度もICカードをタッチさせていた。窓口はあったけれど、この時間にはいつも、車椅子を使っている人の介助のために、駅員は不在になる。
その人は、タッチを諦めて改札をぬるっと抜けていった。また赤く光った。角を曲がったあとに、その人は振り返っていた。その時、彼女は何を思っていたのだろうか。
ミニレゾ